研修医1年目の渡部です。

12月1~2日に、神戸ポートアイランドで行われている日本分子生物学会に出席してきました。臨床の学会ではなく、基礎研究が主の学会です。明日の臨床に役立つ、といったものとは少し違いますが、今後の医療を考える上で非常に勉強になったので、いくつか書きたいと思います。

先天性の酵素不全による疾患、例えばADA欠損症や、X-SCID(重症複合型免疫不全症)、血友病といった疾患に対する、遺伝子治療の話題を拝聴しました。従来の遺伝子治療では、せっかく必要な遺伝子を導入しても、それによってほかの遺伝子配列を壊してしまって、白血病など癌化の危険がありました。最新のウイルスベクターでは、導入した遺伝子は細胞の遺伝子を壊すことがないために非常に安全性が高く、現在までに癌化の報告が1例も無いそうです。いままで、癌化の危険のために治療が躊躇われた、もしくは酵素補充のために頻回の受診が必要だった患者さんには朗報だと思います。

最新の遺伝子改変技術、とくにここ数年話題でノーベル賞候補にもなっている、CRISPR/Cas9システムがあります。従来煩雑で非効率だった遺伝子のノックアウトを、桁違いに効率よくやってくれる優れものです。これを使って、HIVウイルスが体内で細胞から細胞へと感染する際に用いる受容体を使えなくする治療法が開発され、有効性が確認されています。応用の幅はかなり広そうです。

細胞競合の話も面白かったです。癌化した細胞を排除するのは、免疫担当細胞だけの役割だと考えられていました。しかし、ここ数年の研究で、癌化した細胞のまわりの正常細胞が、癌化した細胞を排除する機構があることが分かりました。詳しい機序などはまだ分かっていませんが、今後の癌治療・癌予防に大きな光を与える可能性を感じました。

他にも、癌細胞にウイルスを打ち込んで癌を死滅させる技術、遺伝子同士の相互作用を発見する手法とその応用、などなど最新の知見をたくさん吸収することができました。明日の臨床に役立つものとは違いますが、10年後20年後の医療の姿を垣間見ることが出来ました。いつか、そういう新たな治療への進歩に少しでも関われたら、とより強く思うようになりました。

学会に参加するうえで、参加・交通・宿泊費はすべて病院持ちで負担していただきました。こういった学びの機会を提供して下さる病院のみなさまに感謝です。